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​研究内容の紹介

研究内容

iPS細胞やオルガノイド、臓器チップなどの技術を駆使して、創薬研究に役立つ人体模倣システムを開発することを目指しています。患者さんの病態を忠実に再現できる人体模倣システムを構築できれば、動物実験や臨床試験の実施件数を最小限にしつつ、有望な薬が高効率かつ迅速に開発できるようになることが期待されます。

 1.iPS細胞研究

iPS細胞は自己複製能と多分化能を有する細胞です。当研究室ではiPS細胞から肺細胞や腸管細胞、肝細胞を分化誘導する技術を保有しています。iPS細胞から肺細胞や腸管細胞、肝細胞は創薬や再生医療への応用が期待されています。また、iPS細胞はほぼあらゆる個人から樹立できることが出来ます。iPS細胞は元の個人の遺伝情報を引き継ぐため、遺伝子レベルで規定されている個人差を再現する研究(遺伝子疾患研究)等にも活用できます。当研究室ではCRISPR/Cas9システム等のゲノム編集技術も使用することによって、疾患の原因となる遺伝子に関する解析も行っています。

1.1.ACE2発現ヒトiPS細胞を用いたSARS-CoV-2感染の個人差再現と原因究明。ACE2を発現させたヒトiPS細胞を用いて、SARS-CoV-2感染とその治療薬を評価できることを明らかにしました。また、ヒトiPS細胞を用いて、SARS-CoV-2感染の性差を再現できることを確認しました。(右図は本論文のgraphical abstract。CiRA・大内田美沙紀さん作。)

 論文のURL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33880436/ 

 論文の日本語解説:https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/pressrelease/news/210419-000000.html 

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1.2.TMPRSS2とカテプシンBを標的とした新型コロナウイルスの感染阻害。CRISPRiシステムを用いたTMPRSS2とカテプシンBのダブルノックダウンにより、SARS-CoV-2感染を顕著に阻害できることを明らかにしました。また、TMPRSS2とカテプシンBの阻害剤(カモスタットとCA-074 me)を用いて、同様のウイルス感染阻害効果を得られることを確認しました。(右図は本論文のgraphical abstract。CiRA・大内田美沙紀さん作。)

  論文のURL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34692233/  

  論文の日本語解説:https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/pressrelease/news/211021-000000.html 

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1.3.CRISPRiシステム、iPS細胞、気道オルガノイドを用いて、SARS-CoV-2感染において重要な宿主因子を探索しました。EXOC2という遺伝子の発現を低下させることで、SARS-CoV-2感染効率を低減できることを見出しました。また、EXOC2発現抑制によるSARS-CoV-2感染効率の低下は、IFNW1の発現制御を介することを確認しました。

論文のURL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36310645/ 

論文の日本語解説:https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/pressrelease/news/221027-110000.html 

2.オルガノイド研究

気道および肺胞オルガノイドを用いた研究を行っています。主に、気道および肺胞オルガノイドを用いて、ウイルス性呼吸器感染症の創薬研究を実施しています。SARS-CoV-2やインフルエンザウイルス、RSウイルス、ヒトメタニューモウイルス、風邪コロナウイルスを取り扱っています。ウイルス性呼吸器感染症の治療薬開発を目指して、低分子化合物、サイトカイン、抗体、核酸医薬、細胞等医薬品などの薬効や安全性を気道および肺胞オルガノイドを用いて評価しています。呼吸器だけでなく、腸管オルガノイドや肝臓オルガノイドを用いた研究も行っています。

2.1.気道オルガノイドを用いたSARS-CoV-2研究。気道オルガノイドを用いて、SARS-CoV-2の感染と複製、感染細胞の特定、気道上皮細胞のウイルス応答、変異株解析、治療薬の有効性と安全性を評価できることを示しました。(右図は本論文のgraphical abstract。CiRA・大内田美沙紀さん作。)
 論文のURL:https://www.nature.com/articles/s42003-022-03499-2 
 論文の日本語解説:https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/pressrelease/news/220530-180000.html 

BO論文の概要図2.jpg

2.2.気道オルガノイドを用いたCOVID-19治療薬探索研究。気道オルガノイドを用いて、オートファジー関連化合物スクリーニングを行い、多様なSARS-CoV-2変異株や他のヒトコロナウイルスに対して抗ウイルス効果を示す化合物を探索しました。シクロヘキシミドが強い抗ウイルス効果を発揮することを見出しました。(右図は本論文のgraphical abstract。)

 論文のURL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36946991/   

 論文の日本語解説:https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/pressrelease/news/230324-090000.html  

graphical abstract CHEX.png

2.3.大腸オルガノイドとケラチノサイトを用いたエムポックス研究。ヒトiPS細胞由来大腸オルガノイドおよびヒトケラチノサイトを用いて、エムポックスウイルス(MPXV)の感染実験を行い、MPXV従来株およびMPXV 2022年アウトブレイク株(2022 MPXV)のウイルス学的特徴を明らかにしました。クレードI(Zr-599)、クレードIIa(Liberia)、クレードIIb(2022 MPXV)の3系統のMPXVの感染実験を行い、MPXV感染レベルの評価および感染に対する宿主応答の解析を行いました。3系統のMPXVは、いずれも大腸オルガノイドとケラチノサイトに感染することが確認され、特にケラチノサイトでは大腸オルガノイドよりも約7~42倍の高い感染効率を示しました。また、MPXV感染によりケラチノサイトの機能障害およびミトコンドリア障害を引き起こすことが示唆されました。さらに、2022 MPXVを感染させたケラチノサイトでは、低酸素症に関連する遺伝子の発現量の上昇がみられ、Zr-599 MPXVを感染させた大腸オルガノイドでは、腸管の機能障害がみられました。大腸オルガノイドとケラチノサイトが、2022 MPXVのウイルス学的特徴のさらなる解析とエムポックス治療薬探索に役立つことが期待されます。

 論文のURL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37278443/    

 論文の日本語解説:https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/pressrelease/news/230607-100000.html   

2.4.ヒトiPS細胞由来大腸オルガノイドを用いた潰瘍性大腸炎モデルの開発と応用。炎症性腸疾患(IBD)とは腸に慢性的な炎症が生じる疾患です。患者さんの数は増加傾向にあり、より効果的な治療薬の開発が求められています。ヒトiPS細胞から作製した大腸オルガノイドにIBD患者さんの血清中で高い濃度の炎症性サイトカインを作用させることで、IBDの病態再現を試みました。作製した大腸オルガノイドは、大腸上皮細胞だけでなく、間質細胞や血管内皮細胞などの非上皮細胞を含む多様な細胞から構成されていました。炎症性サイトカインの作用により、上皮細胞障害、ならびに、間質細胞や血管内皮細胞における炎症応答が引き起こされました。IBD患者さんの組織との比較により、本モデルはIBDのサブタイプの一つである潰瘍性大腸炎(UC)の患者さんの大腸と似た特徴を持つことが分かりました。本モデルにUCの治療薬を作用させたところ、炎症応答や上皮細胞障害が抑制され、治療効果が確認されました。本モデルはUCの発症メカニズムの解明や創薬研究への応用が期待されます。

 論文のURL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39435148/     

 論文の日本語解説:https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/pressrelease/news/240930-100000.html    

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3.臓器チップ研究

生体に近い機能を持つモデルを作製するためには、iPS細胞やオルガノイドのような細胞作製技術だけでなく、培養基材の開発も不可欠です。ディッシュやマルチウェルプレートなどの二次元的な細胞培養基材を用いても、生体内の複雑な三次元環境を再現することは難しいです。そのため、マイクロ流体デバイスを用いることによって、生体力学刺激(血流や気流、臓器伸縮刺激など)を負荷できる三次元的な細胞培養環境を作り出す研究を行っています。マイクロ流体デバイスに上述のiPS細胞やオルガノイドを搭載することによって、機能的な臓器チップを開発することを目指しています。当研究室では、iPS細胞の分化誘導やオルガノイドの作製だけでなく、マイクロ流体デバイスの製造も行っております。現在、肺チップ、腸管チップ、肝臓チップの開発を行っています。

3.1.ポリジメチルシロキサン(PDMS)製マイクロ流体デバイスを用いた肝臓チップの創薬応用。低分子化合物がPDMS製デバイスにどの程度収着するか評価するとともに、収着を予測する方法を開発しました。(右図は本論文のgraphical abstract。)

 論文のURL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34283567/  

 論文の日本語解説:https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/pressrelease/news/210727-100000.html  

PDMS dev.png

3.2.フッ素系エラストマー(FEPM)素材を用いた肝臓チップの開発と薬物代謝・毒性試験への応用。低分子化合物が収着しづらいFEPM製デバイスを用いることで、収着の影響をほとんど受けず、薬物代謝・毒性試験ができることを示しました。AGC株式会社との共同研究です。

 論文のURL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34604667/  

 論文の日本語解説:https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/pressrelease/news/210916-000000.html 

3.3.気道チップの開発とCOVID-19研究への応用。SARS-CoV-2の気道から血管への侵入過程を解析できる気道チップを開発しました。気道チップを用いて、SARS-CoV-2が気道上皮―内皮バリアを破壊できることを示しました。その過程で、CLDN5遺伝子の発現が血管内皮細胞で低下していることを確認し、CLDN5発現量を亢進させることで、SARS-CoV-2による気道上皮―内皮バリアの破壊を防ぐことができることを見出しました。また、SARS-CoV-2変異株ごとの気道上皮―内皮バリアの破壊も評価できます。

 論文のURL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36129989/ 

 論文の日本語解説:https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/pressrelease/news/220922-030000.html 

気道チップ.png

3.4.肝臓チップの開発とCOVID-19研究への応用。血管を持つ肝臓チップと胆管を持つ肝臓チップを開発しました。これらを使用することにより、肝臓内の血管周囲と胆管周囲で起こる現象を解析できるようになります。SARS-CoV-2感染による肝障害は血管周囲の肝領域で特に強く誘導されることを確認しました。また、この肝障害は抗ウイルス薬であるレムデシビルと抗炎症薬であるバリシチニブを併用することで、治療できることを示しました。

 論文のURL:https://academic.oup.com/pnasnexus/article/2/3/pgad029/7070625

 論文の日本語解説:https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/pressrelease/news/230308-000000.html 

肝臓チップ.png

3.5.腸管チップの開発。これまでにヒトES/iPS細胞から小腸上皮細胞を分化誘導する試みが過去に多数行われてきましたが、小腸の構造的および機能的な特性を再現することは依然として困難でした。我々は、胚発生中において血流から駆動される間質流が小腸の分化誘導に必須の因子であると考え、間質流をin vitroで再現することで成熟した小腸モデルの構築を目指しました。マイクロ流体デバイス内で培地を灌流することで間質流を再現し、ヒトES/iPS細胞から小腸上皮細胞や間質細胞などの小腸を構成する多種類の細胞を同時に分化誘導することで、マイクロ小腸システムを開発しました。間質流の作用により小腸上皮細胞は成熟化し、粘液分泌および柔毛様構造の形成が確認されました。小腸上皮細胞を支える間質層や細胞外マトリックスは、上皮層の下層に整列しており、小腸組織様の多層構造が形成されました。このようにして、マイクロ流体デバイス内でヒトES/iPS細胞から多層構造を持つ小腸組織を作る方法を開発しました。

 論文のURL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38996472/ 

 論文の日本語解説:https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/pressrelease/news/240712-000000.html 

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4.総説・解説記事

4.1.SARS-CoV-2研究に使用できる細胞・動物について

 論文のURL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32553545/ 

4.2.iPS細胞やオルガノイドを用いたSARS-CoV-2研究について(右図は本論文のgraphical abstract。CiRA・大内田美沙紀さん作。)

 論文のURL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34302450/

4.3.iPS細胞とオルガノイドを用いたSARS-CoV-2研究(日本語総説・無料記事)

 記事のURL:https://labchem-wako.fujifilm.com/jp/journal/docs/jiho894.pdf 

4.4.肝臓チップを用いた肝疾患研究について

 論文のURL: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36494740/

4.5.ヒトES/iPS細胞の医療応用について

論文のURL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37557071/ 

4.6.臓器チップを用いた感染症研究について

論文のURL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37245539/ 

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5.共同研究

ウイルス(主に呼吸器)、オルガノイド、臓器チップを用いた共同研究が進行中です。オルガノイドを用いて候補シーズの評価を実施したい方、ウイルスに感染させてみたい細胞をお持ちの方、臓器チップに挑戦してみたい方、マイクロ流体デバイスが欲しい方はお気軽にお問い合わせください。その他のマテリアルについても使用してみたい方はご連絡ください。そのほかの研究に関してもご連絡をお待ちしております。MTAやNDA、共同研究契約も必要に応じて適宜対応可能です。

Copyright© Department of Synthetic Human Body System, Medical Research Institute, Institute of Integrated Research, Institute of Science Tokyo directed by Prof. Kazuo Takayama

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